(1)租税正義とは何か?
法律の究極の目的は「正義の実現」にあります。この正義の意義は多義的であり、一言で説明できるものではありません。しかし、敢えて簡潔に本質的意義を述べるならば、次のように理解することができます。
強者が弱者を支配し、同じ人間を奴隷として売り買いした時代が過去に存在した。正義とは、その支配と従属を断ち切り、人々に自由と平等を保障する価値概念の総称であり、人間が目指すべき理念といえます。法は人々を力による支配から解放し、人々に自由と平等を保障すること(正義の実現)を目的として存在します。
正義の実現を目的とする法は、人類の叡智の象徴ともいえます。人類は不幸な時代を乗り越え、過去のおぞましい行いに対する反省も込めて法というルールの下に国家を再構築しました。我々は国家の構成員である国民の幸福の実現を図るツールとして法を創造したのです。
(2)法は誰のためにあるか!
法は誰のためにあるか。法は時の為政者のためにあるのではなく、我々国民のためにあることを歴史は証明しています。この国家における法の位置づけを租税法に展開すると、租税法はまさに納税者である国民の幸福実現のためにあるといえます。法の目的が正義の実現にあるのであれば、租税法の究極の目的は租税正義の実現にあることは明らかです。
(3)正義とは何か!
法の究極の目的である正義とは何か?正義の中核的な要素が「自由と平等」です。これらの要素のベクトルは、すべて国民の幸福の探求に向かっています。少なくとも、「正義」は政治的理念でもなければイデオロギーでもないことを付言しておきます。
(4)租税正義の目的は公平な課税にある
正義の実現は国民の幸福に帰着します。租税正義の具体的内容は租税公平主義にあります。そうすると、租税法の目的は「租税正義」、すなわち公平な課税を実現させることにより、国民に幸福をもたらすことにあります。国民の税負担能力を考慮せず税が課されると国民は不幸になります。国民の税負担能力に応じて税が課されるか否かは、国民の幸不幸を左右します。まさに租税公平主義はこの税負担能力に応じた課税を求める原理なのです。
(5)租税正義の租税法上の展開
では租税正義は、我が租税法上どのように展開されているのでしょう。租税法は国民の幸福実現のために存在するため納税者主権主義を取るのです。納税者主権主義は申告納税制度、つまり為政者が納税額を決定するのではなく、国民自身からの申告をその基本とします。また為政者の裁量で租税を課すことを許さない租税法律主義を採用することによって納税者主権主義を担保しているのです。
(1)紛争予防が求められる理由
ところで、税法上の争いは、納税者と国家(課税庁)が紛争の当事者となります。民法などの私法と異なり、税法の解釈適用上の争いは、基本的には納税者が強大な国家(課税庁)と対峙する構図にならざるを得ません。国家を紛争の相手にして納税者が勝機を見出すことは至難です。その至難さは租税訴訟における納税者の勝訴率の低さに如実に表れています。そして、運良く課税庁との争い(訴訟)に勝利した納税者でさえも、争点とされた税額が結果として還付されるのみであります。得るものはあまりにも少ないのです。いわんや敗れた納税者は経済的にも精神的にも大きな負担と損失を強いられるのです。
だからこそ、税法上の争いを未然に予防するための事務所体制を構築することが求められるのです。
(2)紛争予防の構造
紛争予防は、理念、理論そして実践の三位一体により構成されます。その内容と関係性は次の通りです。
①紛争予防には、ぶれることのない理念ないし哲学が不可欠である
紛争を誘発するのは、恣意性や人間の理性を邪魔する欲望であるから、その人間の本能を乗り越えることができる崇高な理念として「租税正義」が必要なのです。
②理念を実践に結びつけるには理論が必要である
ただ「租税正義」という理念だけでは、租税法実務との距離が遠すぎて実践にその理念を展開することができません。そこで、理論として、租税法の基本原則である租税公平主義と租税法律主義が不可欠となります。公平は正義の構成要素であり、正義は法に適合しているか否かにより検証されるのですから、租税法律主義は、まさに租税正義を実現させるうえでの理論上の動力源となるのです。
③理論を実践に展開していくにはスキル(技術)が必要であり、そのスキルがリーガルマインド(法的思考)である。
租税法の実務は、事実認定(小前提)に始まり、税法の解釈(大前提)を経て、その税法への当てはめ、という三段論法を多かれ少なかれ採用しています。その際に、いかなる実務上の問題も、法的に筋道を立てて考え、結論を導き出すという、リーガルマインドを身に付けることが不可欠なのです。
税理士が、崇高な理念、強固な理論、そして着実な技術に裏付けられた実践によって租税法実務を遂行するならば、紛争は確実に予防できるはずであり、その結果はクライアントの幸福と信頼を獲得すると確信します。
(1)税理士の仕事を法的に整理する
税理士実務を法的に整理すると,①事実認定に始まり、②該当する個別税法の条文から 抽出された課税要件を、③事実認定により認定された要件事実に当てはめることになり ます。従って、税務調査で問題となってくる争点が、①事実認定の問題か、②の課税要件の導出を巡る税法解釈の問題か、若しくは③の要件事実への課税要件の当てはめの問題かの、いわゆる三段論法を構成する3つのステージのいずれに属するかを整理する必要があります。
①事実認定の問題‥‥契約書や領収書、そしてそれらを反映した会計帳簿といった証拠の証明力が問題となります
②税法解釈の問題‥‥課税要件規定の解釈上の見解の対立が争点とされるときは、学説・判例を検証し、そこから通説は何かを明らかにしましょう
③当てはめの問題‥‥その当てはめに恣意性が混入していないかを検証しましょう
(2)なぜ巡回監査をするのでしょうか!
巡回監査は、会計帳簿の証明力を強固にするための事実認定作業です。証拠能力は証拠収集のタイミングに左右されるため、適時性はその正確性を担保することになります。 巡回監査なき会計帳簿は、美しくても証明力に欠けます。そう巡回監査は、適時な事実認定作業を通じて、会計帳簿という証拠の証明力を強固にする行為なのです。
(3)なぜ書面添付をするのでしょうか!
税理士法に規定する書面添付は、申告の適正性を証明する税理士の釈明権の行使なのです。書面添付は申告の争点整理とその申告の合理性を法的に説明する税理士の説明責任の履行行為でもあります。釈明権の行使と説明責任の履行は表裏一体であり、書面添付には紛争予防の中核的意義があります。だから、書面添付をするのです。


