経営理念に関係した用語については、統一された定義がないために、ほとんどの経営者のみなさんは混乱しています。それが経営理念を難しく、わかりにくいものにしている原因の一つです。
ここでは、最も重要な事柄についてお話しておきます。それは、「哲学」と「理念」と「計画」、この3つの関係についてです。それは、「理念」を明らかにするためには、「哲学」を持ち、「哲学」を実践し、深めていくことが大事だということです。「哲学する」ということは、「いかに在るべきか?」「いかに為すべきか?」「いかに在るべきか?」、この「3べきか」を問い続けるということです。
この「3べきか」の問いこそ、「理念への問い」です。これを自問自答した分だけ「理念」が明らかになってきます。スッキリ、ハッキリ、クッキリしてきます。そして、イメージがより鮮明に、具体的になってきます。写真的なイメージが映画的イメージにもなってきます。そうすると、それに向けての道筋が見えてきて、いつ・どこで・誰が・何を・どのように・どれくらいの費用なのかもわかってきます。これが「計画」というものの原型です。つまり、絵的なイメージに数字的要素(時間・期間・費用・金額)までがクリアになってくるということです。
つまり、「哲学するほど理念が明確になり、理念が明確になるほど、計画が立ちやすく、進めやすく、実行しやすくなる」ということです。「哲学(Philosopy・フィロソフィー)-理念(Ideal・アイデアル)-計画(Plan・プラン)」、つまり、PIPのサイクルを回すということです。そして、行動する中で、サイクルが深まり、成長していくということです。これだけは覚えておくとよいと思います。哲学が弱いと、理念も計画も行動も弱くなるのです。哲学を強くするには、「3べきか」の問いを自問自答し続ける。「問うこと」をもっと意識的に進めることが大事です。
明治時代に近代日本の株式会社制度の下に、第一国立銀行を始めとして会社を500社以上も創立・発展させたのが渋沢栄一です。また、商工業発展に尽力し、経済団体を組織し、商業学校を創設するなど実業界の社会的向上に努めた近代経営の父と言ってもいいでしょう。
その渋沢栄一の名著に『論語と算盤』があります。道徳と経済の両立を説いたもので、
行き過ぎた資本主義を見直し、作り直すという意味では、改めて注目するものです。ここで言う「論語」の意味は、武士の理想的な在り方や理念を教えてくれている教科書というような意味合いです。そして、「算盤」の意味は、商才や利益、数字力の必要性を言っているものです。
『論語と算盤』の中で「士魂商才」を説き、武士道精神を活かした上での商売のあり方について説明してくれています。「商才」を「金儲け」のみにとらえているのではなく、次のように記しています。「商才というものも、もともと道徳をもって根底としたものであって、道徳と離れた不道徳、欺瞞(ぎまん→ウソのこと)、浮華(ふか→うわべだけで実質がないこと)、軽佻(けいちょう→軽率・かるはずみ)の商才は、いわゆる小才子、小利口であって、決して真の商才ではない」。
日本人は、どこで間違ってしまったのでしょうか。第二次世界大戦で負けて、敗戦国としての復興を遂げる中で、この精神を忘れてきてしまったということでしょうか。こんな時代だからこそ、この『論語と算盤』の精神を、今の時代に蘇らせ、経営承継にも活かしていくことが急務であると痛感するものです。
先に紹介させていただいた『論語と算盤』の現場版こそ稲盛和夫氏の「京セラフィロソフィーとアメーバ経営」であると考えているものです。『アメーバ経営』(稲盛和夫著・日経ビジネス人文庫)の中で次のように記しています。
「アメーバ経営は、小集団独立採算による全員参加経営を行い、全従業員の力を結集していく経営管理システムである。それには、全従業員が何の疑いもなく全力で仕事に打ち込める経営理念、経営哲学(フィロソフィー)の存在が必要なのである」
「経営哲学」と「数字に基づいた目標管理システム」。この両輪がうまく回って初めていい経営、儲かる経営、継続する経営ができるということです。会計人・プロの税理士の立場から改めてその意を強くするものです。


